コロナ禍のマスク着用の影響もあって、歯列矯正を始める方が増えています。
たしかに、矯正装置を自然にマスクで隠せる今は、審美性を気にされる方にとって、絶好のチャンスといえるのかもしれません。
矯正治療は、目的の位置に歯を少しずつ動かすものですが、歯の動きには個人差があります。
上手く歯が動いてくれれば、治療期間が短くなるため、ご自身の歯が本当に上手く動くのか、気になる患者さまも多いです。
また、歯列矯正をしているのに、歯が全く動かない”アンキローシス”と呼ばれるものもあります。
今回は、歯列矯正の際に気になる歯の動きやすさ、動かない原因となる”アンキローシス”について詳しく説明していきたいと思います。
目次
歯が動きやすい人はどんな人?
歯列矯正にかかる時間は、歯並びの差など個人差が大きいため、一概にどのくらいとはいえません。
一般的に矯正治療は、ブラケットやマウスピースといった矯正装置を用い、ワイヤーで歯に力が入れていきます。
これらの矯正装置を装着して、少しずつ力を加えていきますが、冒頭でも説明の通り、上手く動く人もいれば、動かない人がいるというのも事実です。
では、具体的に歯が動きやすい人にはどんな特徴があるのか紹介していきます。
歯並びの問題の大小
歯並びの問題が大きく、動かす距離が長くなるほど、歯は動きにくく時間もかかります。
逆に歯を動かす距離が短い場合は、短い期間で歯列を綺麗に整えることができます。
新陳代謝が良い
歯列矯正の歯の移動は、歯の周辺に存在する組織の新陳代謝とも大きな関わりがあります。
お肌と同じく、ターンオーバーがしっかりとされていれば、矯正の効果も高まります。
そのためにも、1日3食しっかりと食べて、適度な運動をし、十分な睡眠をとるなどの生活習慣の見直しもカギになります。
矯正期間中は食事の問題などもありますが、いつも以上に健康に気遣い、なるべく短い期間で治療を終えられるようにしたいところですね。
口周りのクセがない
例えば、頬杖をつくクセ、歯を舌で押すクセ、歯ぎしりや噛み締めがある人などは、注意が必要です。
これらのクセは歯に負担をかけるため、クセがない人と比べて、治療効果が出にくい傾向にあります。
もし、自分で「クセがある」と自覚できているのであれば、なるべく気をつけて改善してみてください。
就寝中のクセに関しては、なかなか自分で改善しにくいものですので、担当医に相談してみるのも1つの方法です。
歯が動きにくい人はどんな人?
歯の動く速度は個人差が大きく、歯が動きにくい人も存在しますし、全く動かない人もいます。
その原因は、大きく分けて3つあります。
舌癖
先程も紹介した通り、無意識のうちに舌で歯を押してしまうクセがある人は注意が必要です。
矯正中は目的の位置に動くように力をかけていますが、舌癖がその力とは反対方向に働いている時は、矯正の効果が半減してしまうのです。
悪い歯並びにもいろいろ種類がありますが、「空隙歯列」(すきっぱ)や「開咬」(口が常にポカンと開いている状態)、「上顎前突」(出っ歯)の人は、このクセがある人も多いです。
クセを止めるのはなかなか難しいですが、気をつけてなるべくやらないようにしましょう。
咬合力が強すぎる
咬合力というのは、いわゆる”噛む力”のことです。
緊張している時や集中している時、就寝中に奥歯を噛みしめる食いしばりのクセがある人は注意が必要です。
不必要に噛む力が発生すると、上記と同じく、矯正でかけている力が正しく働かなくなってしまいます。
とくに噛み合わせが深く、噛んだ時に下の歯が上の歯で隠れてしまう「過蓋咬合」の方に多いです。
アンキローシス
この状態は、歯と骨の間にある歯根膜がなく、歯根と歯槽骨が癒着していることを指します。
歯根膜は本来、歯と骨を繋いだり、歯や歯の周囲に栄養を運ぶクッション性の高い組織ですが、これが何らかの原因で失われると、歯と骨が直接結合し、動かなくなってしまうのです。
アンキローシスの主な原因
歯根膜の損傷により、骨と癒着してしまうこの状態ですが、損傷自体は、口腔内の外傷が原因となることが多いです。
例えば、小さい時に乳歯を強くぶつけてしまった、そんな時も、原因の1つとして考えられます。
ぶつけた歯が乳歯で、その後永久歯に生え変わっていたとしても、歯の下にある歯根膜は変わらないのです。
その他、歯周病や虫歯によって歯が抜けてしまった、交通事故や歯をぶつけるような怪我をしたといった場合に、その可能性が高まります。
ただ、アンキローシスが発生する頻度は高くはないので、過度に心配する必要はありません。
自分が「アンキローシス」か診断する方法はある?
ある程度の予測は歯科矯正前にも可能ですが、診断が確定するのは、矯正後、2~3ヶ月してからです。
つまり、矯正をしてみて初めて分かるケースもあります。
診断方法はいくつかありますが、まずは、レントゲンで歯根膜の状態を確認し、その後、歯を叩いた音を確認します。
ただ、これだけでは「確定」とはいえませんので、最終的な診断は、一定の矯正期間を経ても尚、目的の位置に歯が一向に進まないということから、確定診断となります。
この後の対応については、動かない歯の位置でも変わりますので、診断を待つ他ありません。
ただ、心配しないでいただきたいのは、歯列矯正で動かない歯があったとしても、他の歯の歯並びを上手く整えるので、歯列矯正が全くできないという意味ではないことです。
歯列矯正に歯が動かないことがあるだなんて、不安に思う方も多いと思いますが、まずは担当歯科医の話をよく聞き、そういったリスクがあることも分かった上で、歯列矯正をされるかを判断してください。
尚、今回は歯の動かないアンキローシスについて詳しく取り上げましたが、非常にまれな症例ではありますので、歯列矯正のメリットも踏まえながら、検討してください。
歯科医は、歯列矯正前に、メリットだけでなく、アンキローシスなどのリスクやデメリットについてもしっかりとお伝えする義務があります。
患者さま自身も、歯列矯正に関する疑問や不安をたくさん抱えていることと思いますので、是非、担当医に何でもご相談ください。